ステータスの缶ピースの空き缶

初回のアルコール依存症での入院でのこと。缶ピースの空き缶を所有している患者は、ちょっとステータスを感じることができる話。

集合病棟に入院する。各病室は禁煙。喫煙ルームは別にある。タバコとライターは一箱ぶんのみを朝9時頃に配布。夜9時の就寝時に、回収される。

入院からひと月も過ぎると、徐々にこすい考えも出てきて、隠しライターやら隠しタバコを持つ余裕も出てくる。もちろん、見つかると閉鎖送りになるかそれ相応の罰則を受けるので、隠し場所には注意が必要である。

さて、缶ピースの缶だが、ベッドの隅に置いておき、夜中にタバコ吸う時の灰皿として使用する。この即席灰皿はとても良くできており、蓋を閉めるとあっいう間に火が消える。もちろん、底に1センチほどの水を入れてあるのは言うまでもない。

夜中の看護師の巡回は、一時間毎。しかし、毎時ゼロ分と決まっている訳ではない。また、巡回間隔も当直の看護師の都合で1時間とは限らない。看護師に見つからないように、タバコを吸うタイミングは、巡回の直後がベスト。

夜中に起きる。起きて何時何分だろうが、まず巡回まで待つ。遠くから「カシャン」と鉄の扉が開く音が聞こえる。足音とともに、ぼんやりとした懐中電灯の光が近づいてくる。部屋の天井を照らす懐中電灯の光。看護師が部屋に入ってきる。懐中電灯は、開放病棟の場合は、天井に向け、直接寝ている患者の顔を照らすことはない。閉鎖の場合は、確実に患者が寝ていることを確かめるため、顔を照射するそうと閉鎖上がりの患者から聞いたことがある。

看護師の足が遠ざかる。病棟の最後の病室の見回りを終え、別の出入り口の鉄の扉を閉める。その後、カシャカシャカシャと鍵を閉める音を確認する。ちなみにこの当時のこの病院は、出入り口は2重の扉でガードされていた。普通のサッシみたいな扉と、もう一つは暴れた患者が蹴ってもビクともしないような鉄の扉。

看護師が、病棟から去っていくと、どこからともなく、「シュッ、シュッ」と音が、また、ほのかな明かりが病室にあふれる。そう、患者が、タバコに火をつけはじめたのだ。私も、汚い備え付けの戸棚の奥に隠してある「わかば」とライターを取り出し火をつける。しかし、油断は禁物。看護師の巡回は、気まぐれだ。今、出ていったと思った看護師が、何かの拍子に突然戻って来ることだってあるのだから。

注意深く、辺りを用心しながら、深く煙を吸う。煙を吐く場所にも注意しなければならない。対面に別の病棟がある。閉鎖病棟。閉鎖病棟の患者は、開放病棟の患者をねたんでいる。彼らは、夜中に開放病棟から白く流れる筋が煙と知っている。これをチクれば、開放病棟からまた一人引きずり下ろすことができるかもしれないのだ。ライターで火をつける時も、なるべく壁際の低い位置で、明かりが周りに見えないようにしなければならない。煙を吐く位置にも注意して、夜中のタバコを楽しむ。

もし、不意を付かれて、看護師がUターンしてきても、缶ピーの空き缶があれば、なんとかなる。即、タバコを缶に入れて火を消し、蓋を閉める。看護師は、当然、誰かがタバコを吸っていたとは判る。部屋が煙で真っ白なんだから。しかし、現行犯でなければ、捕まることはできない。看護師は、引き下がって帰っていく。こういう夜は、次の日のガサ入れに注意して、さらにタバコとライターの隠し場所を変えておく。

缶ピースの空き缶を持っている患者は、それが、ステータスなのだ。精神病院では、外ではゴミで何の価値もないようなものでも、価値を持ってくる。制限されている、ただ飯くって息して「生きる」ことだけが許されているような環境では、どんなものでも無駄ということはないようだ。

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Author:YJ
アルコール依存とベンゾジアゼピン系薬物依存の記録。

I hope this blog is of some help to those wandering in the darkness with no way out like I used to be.

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